結婚指輪
大掃除で 家の開かずの間 2 のライティングビューローのガラス戸
をふと覗いてみた。箱根の寄せ木細工の古びたちいさな箱があったので
ふと開けてみた..... 何十年も前になくしたはずの 金色の指輪がふたつ
それは 夫とわたしの結婚指輪だった.... 小さい指輪は小指にちょうど
よかった 大きい指輪は中指に嵌まった
なんてきれいな手だろう と 夫に褒められた 華奢な白魚のような
手は日に焼けしわが刻まれ むかしのおもかげなど片鱗もないけれど
今日 わたしはしあわせで 何の苦も無く あうひとあうひとにことば
をかけ 惜しげなく笑顔をふりまき ともに笑いあった。
その指輪には日付が刻印されていた 昭和54年1月20日 .....
それは わたしが 横浜で 夫と出逢った日
実は 幾度も 幾度も ふたりはすれ違っていたのだが ほんとうに
逢って 言葉を交わした最初の日だった。信じられないことに
2月に入ってすぐ 福生で所帯をもち 一年後 会社をおこした
ともに過ごした日々 戦いの日々 どうしようもないジョーク
ちいさな裏切り ちいさな噓 いたわり ねぎらい 誇り 落胆
どんなに困っても 不屈 どんなに遣る瀬無くても 笑いを
忘れないひとだった 学校は出ていなかったが 叡智をその目に
宿し 困っているひとを見るとほっとけないひとだった。
だまされても なにされても 他人のせいにはしなかった
そのあなたは かあちゃん かあちゃんは強過ぎて かわいそうだ
と 言って 逝ってしまった 櫻の夜 月の夜 だった。
中指にかつて 結婚式の日 あなたにはめてあげた その指輪
をはめていると あなたのように冗談が言えそうだ やさしくなれ
そうだ
でも わたしは このブログを書きながら追憶の波にさらわれ
あのひのこと このひのことを 思いだして 寄る辺ない子ども
みたいに泣いている。
