si シ

太陽が赫赫と燃える真夏の草いきれのなかに シ は ひそんでいると 思っていた 子どもの頃

だが シ は春の風に揺れるわかばの葉裏に 叢の小さな花のうてなにこそと知った老いたわたし

亡き夫の聲がすこしずつ蘇ってくる すこしちかくにいるように感じる

「かぁちゃん やべ」

「いやよ あなた わたし まだ行かないわ やることがたくさんあるの」

箱のなかに見つけたガラスを連ねたネックレス あぁ メトロポリタンホテルの売店で 櫻井先生と

(メトロポリタンホテルってまだあるのかしら 先生はあのとき なにをお求めになったのだっけ....)

「ルカさん .... いきましょう  」

「いやです 先生 わたし もっと 語らなくては ...... 子どもたちに さびしいひとに」