レクイエム 朝のおはなし会
3月7日 中学校で 3.11のものがたりを語りました。その年7月南三陸で聴いた庄司アイさんの家ごと流された体験談です。それから大川小学校のポケベルの話 そして3.11のとき 最も近い東海原発が実は危なかったというおはなしをしました。
80年前3月10日の東京大空襲 14年前3.月11日の東日本大震災 .... はつながっていることをご存じでしょうか。
震災 のあと 降ってきた けれど いちども語れなかった ちいさなものがたりを 聴いてください
北の浜辺に波が打ち寄せています。白くあわだつ波が 飽くことをしらず寄せてはかえし寄せてはかえしてゆきます。
浜辺にはたくさんのなきがらが寄り添うように打ち上げられていました。
手をさしのべたまま力つきた若者のなきがらがありました。足のもぎれた年寄りのなきがらもありました。
目の亡くなった子どももおりました。衣類を波にさらわれ白い肌をさらしたなきがらが壊れた人形のように頬をよせあっておりました。
びょうびょうと冷たい風がふき 大地は悲しみに打ちひしがれておりました。
すると鉛色の空から 幾千もの白く輝く天使が光の矢のように 舞い降りてきました。
天使は浜辺や瓦礫の山やとうとう助けのこなかった避難所に降り立って、
そうしてひとりずつ.....なきがらのかたわらにひざまづくと 途方にくれているたましいを抱きとめ空にあがってゆきました。
ある天使が胸に抱いたたましいにそっとささやきました。
あなたは こんど 生まれるとき なにになりたい?
するとたましいは答えました。
お願いです どうか どうか もういちど生き返らせてください .....あの子たちには まだ わたしの手が必要なんです。
それは 無理だ だってあなたの身体はもうそこなわれてしまったのだもの 子どもたちのことは生き残ったひとにゆだねなさい
だいじょうぶ かれらはあなたの子どもをあなたのかわりにいつくしみ育ててくれるだろう
わかりました それなら わたしを花か樹にしてください こんな悲しいこと むごたらしいことを見るのはもういやです。
花か樹になって風に吹かれていたい いつまでも.... いつまでも
よろしい あなたの願いはかなうだろう
たましいはこの世のなごりに今いちど 地上をみおろしました。傷ついた町でひとびとが懸命にガレキをかたづけていました。
見知った町のひとも見知らぬボランティアのひとも助け合い力をよせあって もくもくと働いていました。
.あぁ..... やっぱり 人間がいい。人間に生まれてあの子たちにいえなかったことをだれかにいってあげたい。
してあげられなかったことをだれかにしてあげたい...
それに もしかしたら 生まれ変わっていつか おおきくなったあの子たちにあえるかもしれない.......
母親の魂は天使に言いました。
考えが変わりました。もう一度 .......人間にしてください。
天使はほほえみました。 あなたの願いはかなうだろう それまで ゆっくり おやすみ
母親の魂はこれが最後とちいさな声でわが子の名まえを呼びました。タケル タケル ....ホノカ ホノカ
その声は風となって 地上に舞い降り 木の葉を震わせ 窓ガラスをカタカタと打ちました。
不思議なことに 避難所の小学校の校庭で遊んでいたふたりの子どもは ふと 振り返りました。
かたときもわすれないだいすきなおかあさんに名まえを呼ばれたような気がして.....
「おにいちゃん ママの声がしたよ」
ちいさな兄は妹の手をぎゅっと 握りました。
幾千ものたましいが天使の胸で白くかがやきながら 空にのぼってゆきます。